古文書・くずし字を読めるようになるにはどうすればいい?3~くずし字を読むためのお役立ちツール~

前回はくずし字を読むコツを紹介しました。

今回はくずし字を読むのを助けてくれる、お役立ちツールを紹介します(あくまで私が使っているものですが)。辞書等はお金がかかりますが、無料で使えるものもありますので、ぜひ活用しましょう。ただし、頼りすぎると、自分の力が伸びないので、注意です。

①くずし字解読辞典

辞典は最もオーソドックスなものです。私は、次の2つをよく使います。似た名前ですが、中身は全然違います。

⑴ 児玉幸多編『くずし字用例辞典 普及版』(東京堂出版)

⑵ 児玉幸多編『くずし字解読辞典 普及版』(東京堂出版)

⑴は部首ごとに漢字を列挙し、各文字のくずし字の事例を載せています。その文字を用いた単語も複数掲載されているので、1文字読めれば、そこから用例で答えを探せることもあります。

文字のあたりがついていれば、その文字を直接探して、正解かを確認できます。また、部首の候補がある程度絞れれば、あとはその部首のページを全てめくって探すだけです(それでもぴったりの文字が見つからないこともありますが)。

逆に、部首もわからなければお手上げに近い状態になります。最終手段は全ページをめくって探すことです(冗談ではなく、解読しようと思ったら、それぐらいの努力が必要です)。

それと、⑴の辞典はかなりページ数が多く、初心者には手に余る物かもしれません。書店にいくと、もっとページ数の少ない辞典も販売しているので、まずはそれから使い始めるのも良いかもしれません。例えば柏書房の『増訂 近世古文書解読字典』があります。

これは、出版社や編者は異なりますが、⑴の簡略板といった感じです。私も過去に使ったことがあります。ページ数が少ないので、部首から探す(ひたすらページをめくる)場合などは⑴より楽です。

⑵の辞典は、くずし字の第1画目の書き方から文字を探すものです。文字や部首の見当がつかない時はこれで探します。1文字あたりのくずし字の例は大体2つしか書かれていませんが、お目当ての文字が見つかれば大きなヒントになります。

ただ、古文書を書く人が誰しもオーソドックスな字を書くわけではありません。第1画目の書き方から文字が絞り切れるとは限らないので、注意は必要です。

⑵で近いくずし字を見つけて、⑴でその文字の様々な崩しパターンを見て、正解かどうかを確認する、といった使い方も良いでしょう。

⑵は第1画目の書き方ごとに文字が分類されているので、初心者には使いづらいと思います。部首だけでもわかればその部首の字を一気に調べられる⑴(またはページ数の少ない辞典)の方を先に使い始める方が良いと思います。ある程度くずし字に慣れてきたら⑵の導入も検討しましょう。

②『江戸時代&古文書 虎の巻』

書籍情報は、油井宏子監修・柏書房編集部編『江戸時代&古文書 虎の巻』(柏書房、2009年)です。

この本には、くずし字の例として、江戸時代の年号・十干十二支・よくある人名・旧国名・よくある古文書の文言・数字・単位・ひらがな・主な部首の文字が書かれています。非常に数が多いので、一つ一つの例は1~2個しか載っていませんが、初心者には役立つと思います。

そして、この本の良いところは、くずし字の例が多く載っているだけではありません。江戸時代の古文書を読むにあたり、役に立つ情報が盛りだくさんです。主に次のようなものです。

  • 江戸時代の各年の干支・西暦・閏月・各月が大の月(30日まである月)か小の月(29日まである月)か。
  • 江戸幕府の歴代の大老・老中・寺社奉行・勘定奉行・江戸町奉行・京都所司代・京都町奉行・大坂城代・大坂町奉行・長崎奉行・関東郡代等の一覧。各人物には官途名(越前守・中務大輔など)・通称・在職期間等が併記される。
  • 旧国名・各国の郡名・主な港町名・街道名・主な街道上の宿場名・関所名。
  • 度量衡・貨幣の単位。
  • 主な藩の農村関係の役職名。
  • 主な異体字。
  • 難読語。

これらの情報は、どんな古文書にも使えるわけではありませんが、例えば年貢関係の古文書であれば度量衡の単位名が出てきます。幕府から出された命令書では幕府役人の人名が出てきます。

また、地名を知らないと、文字のあたりを付けることはできません。しかし、国名に続いて郡名が書かれている場合、国名が解読できれば、この本で郡名を調べることができます

くずし字の解読とは別ですが、閏月や干支は古文書の年数を特定するのに役立ちます。

このように、この本は古文書を読むにあたり、くずし字の解読だけではなく、様々な情報・ヒントを得るのに役立つと思います。値段もお手頃です。

③『近世古文書用語辞典』

書籍情報は、佐藤孝之・天野清文編『近世古文書用語辞典』(吉川弘文館、2024年)です。

出版されてから間も無く、私も買ってから間も無いので、まだあまり使っていません。しかし、江戸時代(「近世」とは主に江戸時代のこと)の古文書で使われる非常に多くの語句について説明されている辞典です(江戸時代の国語辞典のような感じすらする)。

私は何年か前に農村の古文書を多く読む機会がありましたが、農村関係特有と思われる単語もあり、文字が想像できないことも多くありました。なので、「あの時にこの辞典があれば!」と思いました。

先ほど、前後の文字がわかれば、読めない文字を想像できる(あたりをつけられる)という話をしました。①⑴の『くずし字用例辞典 普及版』にも単語の用例が載っているので、1文字分かればそこからどんな単語があるのかを調べて、あたりをつけられます。

それと同様に、『近世古文書用語辞典』でも1文字目がわかれば、その文字から始まる単語を調べられます(1文字目がわからないと難しいですが)。同時に意味もわかるので、現代語に訳す時にも役立ちます。

ただ、なかなか充実した内容だけあって、値段は少し高めです。

④東京大学史料編纂所ホームページ

東京大学史料編纂所のホームページには、様々なデータベース等のツールがあります。くずし字解読で主に使うのは次の2つです。

  • 電子くずし字字典データベース。検索は文字単位または部首単位です。くずし字の辞典を持っていない時に、インターネットに接続して使える辞典のような感覚です。
  • 木簡・くずし字解読システム。奈良文化財研究所と共同のもの。読めないくずし字1字を撮影等して画像にし、それをこのシステムに読み込ませることで、候補となる文字を挙げてくれます。文字が読めない時の手助けになります。が、もちろんどんな文字にも対応できるわけではないので、正解率はそれほど高くない、と私は個人的に思っています。

どちらも会員登録不要で無料なので、気軽に使えます。

東京大学史料編纂所ホームページには、例えば前回の『大日本史料』のデータベースもあり、単語で関係する出来事を検索することができるので、いろいろ自分で見てみましょう。

⑤みを

最後に紹介するのは「みを」というアプリです。

「みを」は人文学オープンデータ共同利用センターから提供されている無料アプリです。会員登録も不要です。スマートフォンやタブレット等でダウンロードできます。

写真でくずし字(複数文字も可)を撮影して読み込ませることで、くずし字の写真に重ねて解読結果が表示されます。

解読させる方法は次の2つです。

⑴ カメラで撮影してすぐに解読させる

アプリを開いた画面の右下にある「カメラ」を押し、解読させたい古文書を撮影します。うまく撮影できたら、画面の下の中央(「カメラ」の2つ左)にある緑色のボタンを押します。

⑵ 撮影済の画像データを解読させる

先ほどの「カメラ」の1つ左にある「アルバム」を押して、使用する画像データを選択します。画面に表示されたら、「カメラ」の時と同様に、画面下の中央にある緑色のボタンを押します。

⑴・⑵とも緑色のボタンを押すと、解読が始まり、読み込ませた古文書の画像に解読された文字が重ねて表示されます。表示された状態で再度緑色のボタンを押すと、解読された文字が消えて、古文書の画像だけになります。もう一度緑色のボタンを押すと、また解読された文字が表示されます。

また画面下の5つのボタンのすぐ上にあるバーをスライドさせることで、スライドに従って画面で解読表示を出したり消したりできます。

このように役立ちそうな「みを」ですが、注意点もあります。「みを」はAIでくずし字を認識して解読しますが、得意とするのは江戸時代の版本とのことです。版本とは、木版で印刷された本です。

手書きの文字は、同じ文字でも書いた人によって、崩し方は様々です。今でも字の上手・下手があるように、くずし字にも読みやすい・読みにくいがあります。一方、版本は崩し方が結構きれい(←私の感覚です)です。なので、AIとしても認識し、解読しやすいのでしょう。

試しに、とある本に載っていた手書きの古文書(安土桃山時代)を「みを」に解読させてみました。この古文書は「禁制(きんぜい)」といって、寺社等に対して出されるものです。自分の軍の兵士がその寺社等でやってはならない事(禁止事項)を列挙したもので、大体3ヶ条です。

禁制の文字は読みやすい字であることが多いのですが、「みを」の正答率は3~4割ぐらいでした。くずし字を知らなければ読めない文字を正しく読んでくれる一方で、簡単な文字を誤読するなど、一長一短という感じでした。

利用にあたっての注意事項でも、当然ながら「決して完璧ではありません」と書かれています。

とはいえ、「みを」が一定の解読力を持つのは確かです。まずは「みを」で解読させて、表示された文字で正しいかどうかをくずし字辞典で確認する。同時に、意味も通じるかを確認する。という使い方がよいのではないでしょうか。

ただし、くずし字を解読するにあたり、いきなり「みを」を使うのではなく、まずは自分で読んでみるということをしないと、なかなか解読力は身に付かないと思います。自分の力で読みつつ、適宜「みを」を参考にするというような、自分にとってマイナスにならないような使い方をしたいものです。


さて、3回にわたって古文書・くずし字を読むためのコツ・ツールを紹介してきました。これはあくまで私の経験によるものなので、誰にでも通用するとは限りません。しかし、私も指導者や経験者に教えられ、逆に後輩に教えてきた中で、「使える」と思ったコツ・ツールを含んでいます。それらは多くの人に通用するのではないでしょうか。

最後に繰り返しますが、くずし字解読システムは便利です。時には指導者や経験者に読めない字を教えてもらうこともあるでしょう。しかし、解読システムや他人に頼りすぎると逆に自分の力は伸びません。

古文書の構成を知り、言葉遣い等に慣れ、辞書を使って自分で調べる・確かめる(辞書をめくることで、他の文字を見て覚えるきかっけにもなる)ことが非常に重要です。他人や解読システムに教えてもらった字は必ず辞書で自分で再確認して覚えましょう。

今回紹介したコツやツールを上手に使って、少しでも古文書・くずし字が読めるようになれば幸いです。

※書籍等の情報は2025年4月時点のものです。

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