古文書・くずし字を読めるようになるにはどうすればいい?2~くずし字を読むコツ~

前回は古文書を読む前段階として、古文書のどこに何が書かれているのかを解説しました。今回はくずし字を読むコツを紹介します。

古文書の例

今回も少し使うので、前回挙げた古文書の事例を再掲しておきます。

   尚々於 殿中、可得御意候

如仰、昨日者、 御成之儀付而、万被入御念、過分奉存候、殊早速預御状、忝存候、後刻、於 御屋敷、可得御意候、恐惶謹言

   六月廿八               元佶(花押)

(ウワ書)「               円光寺

       藤堂佐渡守殿         元佶

            御報           」

(『藤堂高虎関係資料集 補遺』今治市河野美術館所蔵文書№3)

意味は

仰るように、昨日は御成のことで万端念入りにされ、十分過ぎることと存じます。特に、早速御手紙を頂戴し、かたじけなく存じます。後程御屋敷でお伺いいたします。恐惶謹言。

なお、殿中でお伺いいたします。

となります。閑室元佶という僧侶が藤堂高虎に宛てた書状です。

「くずし字」は何よりも慣れ

さて、古文書を読むにあたり、最初に当たる壁は、何と言っても、あのぐちゃぐちゃした文字でしょう。あの文字は「くずし字」と呼ばれます。その名の通り、「崩した文字」です。現在であれば草書がほぼくずし字です。

例えば、現在使われているひらがなは漢字を崩した文字からできています。

(ブログカード ひらがなの由来はくずし字を見ればわかる)

これを読むにはどうすればよいか?コツはいろいろありますが、一番必要なものは慣れだと思います。どれだけの経験を積むかです。それでもコツを知っているかどうかでも大きく変わります。

コツとしては、次のようなものでしょうか(思い付いたままに挙げます)。

①よく出る文字は暗記する

コツというよりは単なる暗記ですが・・・。よくあるのは、「御」「候」「可」「被」「申」等です。崩し方の程度も様々で、原形をとどめない場合も多いです。しかし、頻出するので、様々な崩し方を多く見ることで逆に覚えやすくもあります。

古文書は1文字読めるだけで、その前後が読める場合もあります。頻出文字を覚えると、それだけ読める箇所も増えます。初心者の内は頻出文字を中心に覚えるとよいでしょう。

②よく出るパーツを覚える

これは「にんべん」等の篇(へん)、「りっとう」等の旁(つくり)、その他よく出てくるパーツを覚えることです。篇がわかるだけで、候補となる文字が絞れます。ただし、にんべん・さんずい等はよく似ているので、絞れてもまだ候補は多いですが。

よく出てくるパーツというのは、例えば「王」です。「善」・「差」・「様」にはいずれも「王」が含まれていますよね。「王」という字は崩すと「己」のような形になります。つまり、「己」のような形があれば、そこは「王」だとわかるのです。もちろん、崩す程度は書き手によるので、一概には言えません。

しかし、篇や旁も含めてパーツが分かるだけで大きなヒントになります。

③あたりをつける

もし一部しか読めない場合であっても、前後の文字がわかれば、読めない文字を想像できる場合があります。

読めない字を■とすると、例えば「可■申候」とあれば、■には「被」が入ることが多いです。「可被申候」=「もうされるべくそうろう(申されるでしょう)」です。「『被』だろう」とあたりをつけてくずし字を見ると、「あ、『被』だ」と意外にわかるものです。

上記の例で言えば、「可得御意候」はよくある文言です。これが「可■御意候」で1字読めなくても、■は「得」だろうと想像できます。

人名で「藤堂■泉守」とくれば、「藤堂和泉守」だろうと想像できます。「左■門」とくれば、「左衛門」だろうと想像できます。もっとも、人名は逆に想像がつかない名前も多いですが(特に変わった名字・名前)。

あたりをつけるには色々な方法があります。

あたりをつけるためには?

あたりをつけると言っても、何も知識・経験無しでは無理です。どういった方法があるのか、私の経験上から紹介します。

①活字で学ぶ

前後の文字から想像する場合、「可■申候」とあっても、「可被申候」という言葉遣いを知らなければ、そもそも想像ができません。そのためにはどうするか?それは既に解読された(=活字になった)古文書をどれだけ読んでいるか?です。

古文書を読めるようになるために、ひたすらくずし字の古文書ばかり読もうとするかもしれません。しかし、そもそも文字が解読できないので、なかなか読み進められません。

くずし字を勉強するのも大事ですが、活字になった古文書をたくさん読んで、当時の言葉遣いになれることが必要です。むしろ活字になった古文書を読むことから始める方がよいかもしれません。

②書いてある位置から推定

古文書のどの部分にどういった事が書かれるのが定番なのか?を知っていると、読むヒントになります。もちろん、全ての古文書に共通するものではありませんが、特に書状ではある程度使える方法です。

例えば、前回紹介した差出人や宛先です。ここには人名や役職名、役所名等が来るので、あたりをつけることができます。

とはいえ、肝心の本文の文字は、「ここに本文が書かれている」ということが分かっても、直接の解読のヒントにはならないでしょう。これは次の③でお話します。

③主語は誰なのかを考える

現代の文章を読む場合でもそうですが、主語が誰なのかを考えないと、意味を読み誤りますよね。古文書でも主語をしっかりと押さえることが必要です。誰が主語かを正しく判断することで、その主語に相応しい動詞は何か?を考えると、文字のあたりをつけることができます。

例えば、徳川家康は関ヶ原の戦いに向けて江戸に長期間滞在し、その間に多くの人に書状を出します。文中の主語が家康であるとわかれば、例えば江戸を「出発する」という動詞が来る可能性があります。

主語が東海地方で戦っている武将であれば、「誰々と●●され、協力することが大切です」という文章で、「●●」は「相談」かな?と想像がつきます(←こういうセリフに慣れているからわかるのですが)。

主語を考える上でヒントになるのは主に2つです。

一つは先ほどの②でも書いた差出人と宛先です。この書状は誰が誰に宛てて書いたものなのか?差出人が宛先の人に向けて話していると思いながら読みます。もしくずし字を読み誤ると、文脈が変になるので、「あれ?何かおかしいな?」と気付きます。

また、宛先の人が差出人よりも目上なのか、目下なのか、同程度なのかにもよります。それによって、例えば敬語表現の有無が決まります。

注意が必要なのは、例えば天皇や、ある時期以降の豊臣秀吉は自分に対して敬語を使うことです(自敬表現と言います)。ただ、そんな人は少ないので、差出人・宛先は大きなヒントになります。

もう一つは、単純に文中の主語が誰か?です。これは先ほどとは逆に、差出人が敬語を使っていれば、差出人よりも目上や同程度の人が主語になります。例えば、差出人が藤堂高虎の場合、敬語を使っていれば、相手は高虎より目上の人や同程度の人(例えば徳川家康や伊達政宗)になります。

④闕字・平出

あまり例は多くありませんが、闕字(けつじ)・平出(へいしゅつ)は、貴人に対して用いられる表現です。

闕字は貴人の名前や動詞等の前に1字分のスペースを空けることです。

平出は同じく貴人の名前や動詞等の前で改行することです。

どちらも、貴人の上に文字を置かないという発想で、平出の方がより尊敬度が高くなります。平出は、普通は天皇や皇族等を中心に使われますが、明確な決まりはありません。

このことから、闕字や平出があれば、かなりの貴人の名前・動詞であることがわかり、上記③の主語が誰か?を考えるヒントになります。

上記の例で言えば、「御成」と「御屋敷」の前には闕字があり、「御念」や「御意」の前には闕字がありません。当時闕字を使う相手と言えば徳川将軍等になります。結論から言うと、この書状における「御成」と「御屋敷」の主語は徳川家康です。

対して、「御念」や「御意」は闕字が無いので、主語は家康ではなく、藤堂高虎(差出人の閑室元佶から見れば宛先)です。

⑤時代背景

これは(これには限りませんが)書状の内容自体を理解することにも繋がる事です。

書状を1つだけ見ていても、なかなか内容がわからない場合があります。ある程度解読できて、なんとなく内容が分かってきた(それでもまだ読めない文字がある)というあたりで、時代背景を探ってみましょう。

ある程度歴史上の大きな出来事(例えば小牧・長久手の戦いや関ヶ原の戦い)に関わる書状であれば、『大日本史料』という本が役に立つことがあります。

書状には、年は書かれていなくとも月日は書かれていることが殆どです。書状の内容が大体わかれば、更に何年頃の書状かがわかります。

『大日本史料』は、いつ・どこで・何があったかを年月日順に記し、それぞれの出来事に関連する史料を列挙している本です。東京大学史料編纂所が編纂しています。目次で自分が解読したい書状の年月日あたりを見て、関連しそうな出来事を見ます。そうすると、掲載されている史料から、案外読めない文字のヒントになる言葉が見つかるかもしれません。

『大日本史料』は東京大学史料編纂所のホームページで、キーワードで目次検索等ができます。本の内容も見ることができます。

ただし、『大日本史料』にはいくつかの注意事項があります。

  • 全ての年について出版されているわけではないので、調べたい年が無いこともある。現在は江戸時代の初め頃までで、それ以降は出版されていない。
  • 古い時代から順次刊行されているわけではなく、複数の期間に分けて、その期間内で順次発行されている。1冊ずつに「第●編之▲」という名前が付いているが、「●編」が一つの区切られた期間で、「▲」がその期間内での号数を示す。なので、例えば1500~1550年は刊行済、1551~1575年は未刊行、1576~1600年は刊行済といった、飛び飛びの刊行状況になっている。刊行済の期間は東京大学史料編纂所のホームページで確認可能。
  • ある出来事Aについて調べる場合、Aが起きた年月日の項に書かれているとは限らない。ある年月日に起きた出来事Bに関連するからという理由で、AがBの日付の項にまとめて書かれている場合もある。調べたい年月日の前後についても一緒に調べる方が無難。
  • 既に刊行されている年でも、後から出来事や史料が見つかった場合は、「補遺」として別の号に掲載されている場合もある。「補遺」がある場合は「補遺」も見た方が無難。

『大日本史料』以外にも、次のような方法で時代背景を探ることができるかもしれません。

  • 書状に関連する人物の伝記が出版されていれば、それを見る。例えば津藩藤堂家で言えば、高虎の伝記『高山公実録』がある。但し、後世に書かれたもの(『高山公実録』もその一つ)は全て正しいとは限らないので注意が必要。
  • 江戸時代の大名家に関する人物であれば、大名家が編纂した歴史書が存在する場合があるので、それを見る。例えば津藩藤堂家で言えば、『宗国史』という、初代高虎から3代目までの歴史書がある。
  • その出来事が起こった地域や、出来事に関連する人物に関係する地域の自治体史(都道府県・市区町村が発行している、その自治体の区域に関する歴史書)を見る。

時代背景を探る方法は一概に言えませんが、私は上記のような方法をよく使います。

以上が私の思いつくコツです。次回はくずし字解読の大きな助けになるツールを紹介します。

《参考文献》

  • 『藤堂高虎関係資料集 補遺』(三重県、2011年)

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